- 個人事業主の小規模飲食店でも、特定技能(外食業)で外国人雇用は可能。法人格は必須ではない
- 営業許可・雇用契約・労働条件の法令遵守など、制度要件を満たすことが前提
- 特定技能1号と2号で条件が異なり、特に2号は小規模店ではハードルが高い
- 住居手配・日本語教育・生活相談などの支援体制整備が必要。登録支援機関の活用も検討
- メリット:人手不足解消、一定スキルの人材確保、長期就労による定着
- 注意点:在留期間の上限、技能水準確認義務、法令違反歴の有無が採用に影響
はじめに
人手不足が深刻な飲食業界において、特定技能(外食業)という在留資格制度は、即戦力となる外国人材を受け入れるための有力な手段です。では、個人事業主で小規模な飲食店でもこの制度を利用できるのでしょうか。本稿では、法令・制度の要件、実務上の注意点、メリット・デメリットを整理し、小規模店舗が採用を検討する際の道筋を明らかにします。
特定技能制度とは
特定技能制度は、日本国内で人手不足が著しい分野で、一定の技能試験と日本語能力が確認できる外国人を、比較的短期間・実務即戦力として雇用できる制度です。「特定技能1号」「特定技能2号」などの区分があります。外食業はその対象分野のひとつです。

特定技能は、実習生の次のステップとしても注目されています。現場でも“戦力になる人材をしっかり確保できる”と評価されています。
小規模飲食店(個人事業主)が満たすべき条件
制度上、「事業主体が法人であるか個人であるか」は、必ずしも障壁とはなりません。個人事業主でも受け入れ企業(所属機関)として登録し、特定技能外国人を雇用することは可能です。
しかし、「小規模」であることに起因して、実務上および制度上クリアすべき要件はいくつかあります:



個人経営だからといって門前払いされることはありません。必要な書類や条件さえ整えば、堂々と受け入れができます。
要件 | 内容 |
---|---|
営業許可等 | 飲食店を営むには保健所等の営業許可が必要な業態があります。この許可を持っているか、必要であれば届出がされていること。 |
対象業種の該当 | 特定技能「外食業」分野に含まれる業態であること。「76 飲食店」「77 持ち帰り・配達飲食サービス業」など、日本標準産業分類で定められているもの。個人経営店でもこれら分類に該当すれば対象。 |
雇用契約・労働条件の確保 | 日本人と同等以上の賃金・労働時間・休暇の取り扱い・社会保険・税金等の法令順守が必要。派遣形態は認められず、直接雇用であること。 |
支援体制の整備 | 特定技能1号の場合、外国人が日本で生活・就労するにあたっての支援計画書の作成・生活オリエンテーション・住居確保・相談窓口などの支援体制が必要。小規模で自ら対応が難しければ、登録支援機関に委託可能。 |
協議会への参加 | 外食業分野では「食品産業特定技能協議会」等、関係協議会の要件を満たすこと。協議会員であること等の証明が必要な場合があります。 |
法令遵守の履歴 | 過去に労働法令、出入国管理法などで重大な違反がないこと。非自発的離職者や行方不明者を出していないことなどもチェックされることがあります。 |
特定技能1号と2号の違い(小規模店にとってのインパクト)
- 特定技能1号
比較的ハードルが低く、試験に合格して日本語能力も一定基準(例:日本語試験等)があれば採用可能。支援体制の整備が義務。期間上限があります。 - 特定技能2号
より高度な技能や実務経験が要求されます。また、特定技能2号分野に外食業がいつ・どのように含まれるかという点で要注意。制度導入・適用範囲が拡大しつつありますが、小規模店舗で2号外国人を雇うには、受け入れ企業としての条件をよりしっかり整える必要があります。
実務上の注意点と負担
小規模店がこの制度を使う場合、制度上クリアできても「運用の重さ」が負担になるケースがあります。主なもの:
- 支援計画の作成・実行
生活・住居・日本語学習など、多岐に渡る支援を行うことが求められます。自分一人で全てを賄うのが難しいため、登録支援機関を使うことが多いですが、その費用や連絡・報告義務などが発生します。 - コスト・時間
ビザ申請の準備・書類集め・法令・労働・税務関係の整備など、初期コストと継続的なコストがかかります。特に小さな店では「毎月のコスト」「外部委託か自前か」の判断が重要。 - リスク管理
法律違反・雇用条件トラブル・在留資格管理など、リスクを正しく理解しておくこと。たとえば、従業員が非自発的離職者になってしまった履歴があると、制度上不利になることがあります。



ここは小規模店にとって最大のハードル。支援計画や書類作成は思ったより手間がかかります。外部委託もうまく活用したいところです。
メリット
それでも、小規模飲食店がこの制度を利用するメリットは大きいです。
- 慢性的な人手不足をカバーできる
- 技能と日本語能力を有する人材を採ることで、教育・研修の負荷が比較的軽く済む可能性
- 長期就労の可能性(特定技能で一定期間)により、スタッフ定着による経営安定への寄与
デメリット・制限事項
- 在留期間の上限がある(特定技能1号では最大で5年など)ため、「ずっとこの人で・・・」という計画が取りにくい場合あり。
- 支援義務や報告義務など、管理コストが意外と重い
- 実務経験や技能レベルの見極めが必要(外国での証明が認められるかなど)
まとめ:小規模飲食店でも“可能なケース”と“洗い出すチェックリスト”
可能なケースの特徴:
- 営業許可を取得しており営業実態がはっきりしている店
- 法令・労働基準をきちんと守っている/守る体制を整えられる店
- 支援体制(または支援委託先)を確保できる店
- 継続的に経営が見込め、コストをある程度吸収できる余裕がある店
チェックリスト(個人事業主としてまず確認すべきこと):
- 飲食店営業許可(保健所等)を持っているか/必要な届出がされているか
- 対象業種に該当するか(外食業、持ち帰り・配達など)
- 日本人と同等以上の賃金・労働条件を提供できるか
- 社会保険・労働保険・税金関係の手続きが整っているか
- 支援計画・支援体制を整備できるか(または支援機関を利用するか)
- 協議会加入など制度的義務をクリアできるか
- 過去に重大な法令違反がないかどうか確認する(自社・店舗として)



私自身も小さなお店から相談を受けることが多いのですが、“やってみたら意外とできた”という声も多いです。準備と計画次第で道は開けます。
最後に
個人事業主が小規模な飲食店であっても、十分な準備と体制を整えれば、特定技能制度を使って外国人を雇用することは「可能」です。ただし、制度の要件・運用の負荷・コストを軽く見ないこと。経営計画の中に、制度対応のための時間・費用・人手をあらかじめ組み込むことが成功の鍵となります。
もしよければ、あなたの店舗の規模(席数・スタッフ数・売上見込みなど)を教えてもらえれば、それを基に「実際に特定技能を使うためにあなたの場合、どこがハードルになるか」を一緒に見ていきましょうか。
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